2012年12月24日(月)

2012-12-24 16:55
431 トイレの話をしようか[]



街の外れに幽霊が住むと噂される公衆トイレがあった。
幽霊なぞいるわけないあんなものは疑心暗鬼の結果に過ぎないと決めつけていたが、わざわざそれを確かめるほどの興味もなく、俺はそのことをすっかり忘れていた。
ある昼、俺は猛烈に腹の痛みを感じ、どこかに空いているトイレはないものかと街を彷徨い歩いた。
どうして必要な時に限って満室なのか。どの店のトイレも鍵穴が赤に変わってやがる。
「糞が! 漏らしちまうじゃねえか!」
俺は舌を激しく鳴らし、今にも人を刺し殺しそうな形相で電柱を蹴りつけた。実際、目の前でトイレを奪われるものなら殺してしまうかもしれないと思った。だが幸いにも人肉に通用しそうな獲物は持ち歩いていないうえに、腹痛で拳を振るう気力もない。
じゃあ何故電柱を蹴れたのかと思うかもしれないが、少々大げさに言っただけで、実際は蚊も仕留められないような勢いで爪先を当てただけにすぎない。
腹がぎゅるぎゅる言い出して、いよいよ大洪水の到来かと思われた頃、俺はようやく曰く付きのトイレを思い出した。
行ってみればなんてことはない。壁なんぞは茶色く腐っていやがるが、トイレはトイレだ。遠慮なく個室に入って鍵を閉めると、ふと頭上から視線を感じる。
見上げてみて俺は悲鳴をあげた。
「あらあら久々のお客さんね」
全裸で筋肉質の男が天井に張り付いていたのだ。
男は素早く着地して逃がさんとばかりに扉を背にすると、俺の身体を隅々まで舐めるように見た。
幽霊なんてとんでもない。もっと悪質な変質者だ。
男は舌舐めずりをしながら、
「さあ脱いで。楽しみましょう」
と言った。
(閲覧:200)
←前|次→
[yコメントする]

[←戻る]